ドットコムバブル崩壊から復活
アメリカでは、20世紀末に株式市場のネットバブルが弾けた。当時のネットバブルは「ドットコムバブル」とも呼ばれている。バブルは1990年代の半ばから後半に起きた。インターネット初期の熱狂による株価の上昇相場だった。バブル崩壊で株価が下落した。それに伴い、アメリカのM&Aブームもいったんは、沈静化していた。それが、2003年後半から復活した。
買い手も売り手も得をしたと思える状況
経済が上向けば株価が上がる。とはいえ、会社の値段が上がることがそのまま売買の活発化につながる、というような単純な話でもない。買い手にとって会社の価格が上がることは好ましくないからだ。
売買が成立するためには、買い手も売り手も得をしたと思える状況が必要だ。その点では、2004年ごろのアメリカは理想的環境だった。株価が近年の最低水準から一定程度上昇し、さらに今後も上がっていきそうな状況だったからだ。売り手からすると底値売りを避けられたということになった。一方、買い手は将来のさらなる価値の上昇が期待できた。
GDPの半年遅れ
トムソンの分析によると、M&Aの動向はGDPの動きを半年遅れで追いかけているという。これは見方を変えるとM&Aビジネスは仕込みから契約締結までに平均半年程度かかっていることの反映だとも言える。
企業買収が増えた理由
21世紀初めて(2004年当時)のアメリカでの活発な企業買収には、以下の原因があった。
- ・エネルギー大手のエンロンや長距離通信大手のワールドコムの破綻の呪縛が解かれた。
- ・ドル金利が過去40年間で最も低かった(買収資金の調達に有利)
- ・キャピタルゲイン税の最高税率が20%から15%に下がった。
「大きいことは良いことだ」
エンロン事件の直後は逮捕者が多数出た。このため、大企業の経営者の多くが萎縮した。しかし、しばらく後にイケイケムードに戻った。
多くの業種で統合が進んだ。「大きいことは良いことだ」という考え方が復活した。自分が大きくなるか、競争相手が大きくなるかのどちらかしかない。資本主義的な生存競争の精神である。
アメリカ企業の経営者たちは、M&Aによる業界再編を必然として受け止めるようになったのだ。
成長のスピードを買う
会社をゼロから起こして大きくしていくより、現存する会社を買収してしまう方が優れている、という考えが支配的になった。そのほうが成長のスピードが速いからだ。確かに会社のインフラ、顧客、商品を買うことのメリットは大きい。
スターバックスはシュルツ氏に買収された。
ここで参考になるのが、スターバックスのケースだ。世界的なブランドとなったシアトルのコーヒーショップは、ハワード・シュルツ会長が設立したと思っている人が多いが、実は違う。シュルツ氏はスターバックスがまだ4店舗しかなかった時に入社した。その新しいスタイルに魅せられて入社したのだ。
しかし、のちに退社した。全国展開すべきという彼の主張が創業者に受け入れられなかったからだ。その後、シュルツはシアトルでイタリア式のエスプレッソバーを開き成功した。そこで得た資金を元手にスターバックスを買収した。
米銀行業界のM&A
2003年以降、アメリカの銀行業界の買収が活発になった。2003年10月にバンク・オブ・アメリカ(全米第3位)がフリートボストンを約460億ドルで買収した。
2004年に入ってJPモルガン(全米第2位)が約580億ドルでバンク・ワンを買収した。
規制緩和で寡占化
アメリカの銀行界は規制緩和に後押しされて過去10年来寡占化が進んできているが、このところの株高でトップ3行の鼻息はますます荒くなっている。
保険業界も
一方、保険業でも買収が激化した。欧米では相互会社の株式会社化が進んでいる。保険会社が数多く上場されていくなかで、行きつく先は買収という動きになった。